サロメは遅い昼食を、ビュッデヒュッケ城のレストランでとっていた。
 昼食時も過ぎ、レストランに客の姿はまばらである。人気のないテラスの一角に腰を落ち着けて、サロメは日光を反射してきらめく湖面に目を向けていた。
 湖から吹く風もしばし止み、穏やかな昼下がりとなっている。戦いが続いて、城の外に一歩出ればきな臭さが抜けない状況下であることを、ほんの一時忘れてしまいそうだ。
 だが、そんな悠長なことは、食事の相伴をしている男が許すまい、とサロメは思った。
 常ににこやかで笑みを絶やさず、とぼけた話術で相手の警戒を緩ませてしまう男である。ほんの少しでも気を許せば付け入る隙を与えてしまうと思い、サロメは気を引き締めなおして、顔をそちらへ向け直した。
 自国の状況を手際よく語っていた男は区切りのいいところで話を切り、サロメの反応を待っている。サロメは頷きを返し、話が耳に入っていたことを示した。
「折角の昼飯を、しがない男が一緒で申し訳ないな」
 人の悪い笑みを見せて、男がそんなことを言う。サロメは思わず苦笑して、首を振った。
「それはお互い様というものです。美女のお供をしたいのは山々ですが、それは事態が平穏になったときの楽しみとして取っておくべきでしょうな、ナッシュ殿」
 ナッシュは笑みを返し、一瞬のうちに真顔に戻って会話を本筋に引き戻した。
「ハルモニアの裏事情は、先刻話したとおりです。我々としては、この戦が終わった後も、現在の同盟を維持していきたいと考えています」
「それはこちらも同様です……が、その決定権は私やクリス様にはないことはご存知の通りだ。我らは騎士として、評議会の命を受ける身に過ぎない」
 サロメがそう告げると、ナッシュは曖昧な微笑を漏らした。
 ナッシュはよく笑顔を見せるが、それは状況に応じて様々な色合いを帯びており、今は儀礼的な意味が多く含まれていた。
「ご謙遜を、サロメ殿」
 それに対してはサロメもぼかした笑みを口元に刻み、何も返さなかった。その代わりに、別の言葉を続けた。
「貴国の状況はよく理解しました。我らゼクセンが及びもつかぬほど世界の要である貴国の意思はグラスランドを簡単に揺るがしかねない。私個人としても、現在の関係を維持できるよう力を尽くしまょう」
「そう願いたいですね」
 ナッシュは頷き、そして付け加えた。
「そして、シックスクランともね」
「そうですな」
 シックスクランの中でも、特にカラヤクランの族長ルシアと、ゼクセンの因縁は容易にほどけるものではなかった。それでも互いに住まう地を同じくする身として、二つの勢力は手を結び、共に戦っている。それは先々の予兆として、悪いことではなかった。
 サロメは短いうちにそれらの事に考えを巡らせ、再び眼前のナッシュに意識を戻した。ふと男の手元に目を落とすと、先刻まで肉の乗っていた皿が綺麗に片付いている。込み入った話をしながら食事を平らげたナッシュの器用さに呆れつつ、サロメは再び食事をとり始めた。ナッシュの台詞ではないが、男同士で昼下がりのレストランで昼食を取るという図は、どうも食欲が湧かないようである。しかし早く食べ終えなければ、この白昼の密談を切り上げることも出来なかった。


 レストランでの食事を終え、ナッシュと別れたサロメは、割り当てられた自室に戻ろうと、迂回して店の並ぶ城の大広場に出た。古びた噴水が視界に入ったところで、見慣れた二人の人物がその側でかがみこんでいるのに気付き、そちらに近づいて声を掛けた。
「ルイス、何をしている?」
「あ、サロメ殿」
 年の若い、まだ子供っぽさの抜けない少年が肩越しに振り返り、サロメの姿を認めて腰を上げた。連れの騎士もちらと反応は見せたが、相変わらず視線の先にあるものを注視している。
 ルイスはサロメの側に駆け寄り、弾んだ声を出した。
「牧場に行く途中で、パーシヴァル殿が見つけたんです」
 ルイスが指差す先には、農家の女房らしき女が広げた露天の花屋があった。
 鉢に植えられた植物はその殆どが色とりどりの花をつけており、芳香を放っている。パーシヴァルはそのすぐ側で花屋の女にあれこれと注文をつけて、豪奢な花束を作らせていた。
 サロメはルイスと共にパーシヴァルの近くに寄り、声を掛けた。
「まめなことだ」
「ご婦人には、これが一番ですよ」
 花屋に代金を支払って花束を受け取ったパーシヴァルは腰を上げ、やっとサロメに向き合った。
「美しいもの同士でよく似合いますからね」
 そんなことを真顔でさらりと言うパーシヴァルに苦笑して、サロメはナッシュのことをちらと思い浮かべた。あの男も言いそうな、歯の浮きそうな台詞である。
 パーシヴァルはサロメの顔を横目で見て、胸中を見透かしたように言った。
「ところで、ナッシュ殿との御会食はいかがでした」
「見ていたのか。……やはり、目立っていたかな」
 パーシヴァルは肩をすくめた。
「かなり。昼日中に男二人が向かい合って、それもあなたとナッシュ殿ではね。場の雰囲気とそぐわなくて浮いていましたから」
 そもそも、昼食をとりながら話をしようと誘いかけてきたのはナッシュのほうだった。密室に籠もるより、却って目立つまいというのが彼の言い分だったが、それもこう言われては怪しく思えてしまう。
 サロメは溜め息をつき、花屋の方に視線を投げた。
「悪い話ではなかった……が、それも今後の戦次第でしょうな。我らが弱みを見せれば、向こうはそこに喰らいついてくる」
 今の結束が永遠であると頭から信じ込むことはできない。相手はあのハルモニアだった。だが、それ故に今の状態を維持できれば大きな力となるはずだった。
「我々の働き次第ということか。責任重大だな」
 パーシヴァルが呟き、ルイスが緊張した面持ちで二人の騎士を見比べている。サロメは安心させるようにルイスの肩を叩いてやった。
 パーシヴァルは大きな花束を持ち直し、悪戯っぽく笑った。
「さて、それじゃ私は今後の為に、我らが女神のご機嫌を伺いに参ってくるとしましょうか」
 そう言ってサロメとルイスに空いている方の手を上げ、パーシヴァルは城に向かって歩いていった。
 サロメはそれを見送った後、ルイスの視線を感じて目をそちらに向けた。サロメと目が合ったルイスは慌てて視線を逸らし、花屋の物色をしている振りをしている。
「どうした、ルイス」
「あ、いえ……」
 歯切れの悪い応えを返しながらも、ルイスは物言いたげにちらとサロメを見上げた。
「いいから、言ってみなさい」
 再度サロメが促すと、ルイスは思い切ったようにサロメの顔を見つめなおし、口を開いた。
「…サロメ殿は、クリス様がパーシヴァル殿と、その…、想い合うようになってもよろしいのですか?」
 先刻の会話とはかけ離れた問いに、思わずサロメはルイスをまじまじと見詰めた。ルイスは場違いな質問をしていることは承知しているらしく、きまり悪い表情をしている。
 サロメはそのちぐはぐさに耐え切れず、笑い出してしまった。
「何を言うかと思えば…」
「す、すみません。でも、気になってしまって…。だって、サロメ殿はいつも、ああしてパーシヴァル殿がクリス様の元に行っても何も仰らないし、他の誰かがクリス様に文を届けても全然構わないみたいだし……」
 ルイスの語気はどんどん弱くなっていき、最後には小さく声が途切れてしまった。言い出したことを後悔しているらしく、起こられるのを覚悟してサロメの言葉を待っている。
 サロメは可笑しい気分を抑えて、ぽんとルイスの頭に手を乗せた。
「私は別に、クリス様が誰と恋をしようと、愛し合おうとそれを止めるつもりはないよ。第一、私にその権利があるはずはない。それはクリス様がご自身でお決めになることだからな」
「それは……、そうです」
 今ひとつ納得していないルイスの様子に、サロメは苦笑した。
「……言っておくが、私にそういう気はないぞ、ルイス。私にクリス様に対して恋愛感情があると考えているなら、それは訂正してもらおう」
「えっ、は、はい」
 内心で考えていたことを口に出され、ルイスはびっくりして大きな声で返事をした。
 サロメはルイスの頭の上に乗せていた手を外し、花屋が広げた花々を指差した。
「お前こそ、クリス様に何か差し上げたらどうだ?ぼやぼやしていると、本当にパーシヴァル殿がクリス様の心を掴んでしまうかもしれんからな」
 ルイスは今度こそ真っ赤になってしまった。
「急に変なことを言い出してすみませんでした。ぼ、僕、用がありますのでこれでっ」
「あ、こらルイス……」
 サロメが止める間もなく、ルイスはほとんど駆け去る勢いで歩いていってしまった。
 思わず出した片手の所在に迷って、サロメは笑い混じりの息を吐くと、花屋をちらと見た。
 ふと、昔の出来事を思い出していた。
 サロメは花屋に近づき、一際小さな白い花を付ける小振りの鉢を見つけた。
 そして、花屋の女に声を掛ける。
「すまないが……」


 ルイスの問われたことが、どこか胸のうちに引っかかっていたのかもしれない。
 その日の夕方、一日の執務がほぼ片付いて一人自室でお茶をすすっているとき、サロメが思い返していたのは、先代の騎士団長が戦死して、意気消沈した騎士団がブラス城に帰還した夜のことだった。
 敵に団長の首を討ち取られて敗戦という煮え湯を飲まされた彼らは、当然自らのふがいなさを嘆き、同僚の騎士と団長の死を悼み、復讐の怒りに燃えていた。
 ……だが一方で、奇妙な昂揚感にも包まれていた。
 彼らは、新しく仕えるべき戦女神を得ていたのだった。
 戦場で総指揮を失って崩壊寸前だった騎士達を救ったのは、銀髪の女騎士だった。
クリス・ライトフェローは誰よりもめざましい働きを見せた。彼女は先頭に立って道を開き、多くの騎士を逃がす事に成功した。
 その戦いぶりを、サロメは昨日のことのように思い出せる。
 彼女は復讐の怒りにたぎりながらも、剣を振るう動作はごく冷静で、的確に敵の急所を狙っていた。銀の鎧はたちまちのうちに赤い返り血で彩られ、彼女の行く先には血の臭気が籠もっていった。
 サロメだけではない。その場にいた全員がクリスの戦いぶりに総毛立ち、そして新しい騎士団長の誕生を予感したのだ。
 男ばかりの騎士団において、戦場での強さは唯一無二の価値を示す。クリスは十二分にそれを証明したのである。
 ……サロメはその時のことを思い出し、無意識のうちに吐息した。
 だが、クリスはまだ妙齢の女性でもあった。
 ブラス城に戻った誰もがクリスに恭しい態度を示した。彼女には当然の如く上等の個室が新たにあてがわれた。クリスは多分に戸惑いを見せながらも、その個室に入って湯浴みを希望し、それが用意されると……全ての人の出入りを拒んで、その中に閉じこもったのであった。
 若い女性の湯浴み中であるから、当然誰も近づかなかったが、数少ない侍女達も出入りを禁じて一刻が過ぎてもそこから出てこないということで、さすがに不審を感じた侍女からサロメに連絡が来た。
 若い女性の湯浴み中に部屋を訪れる事に多分に躊躇いながらも、サロメは部屋の前までやってきて、ノックしようとした瞬間……その手を止めた。
 水音に紛れて聴こえてきたのは、低い嗚咽だった。
 扉の前に作っていた拳の所在をなくして、サロメはその場から踵を返し、去ろうとした。
 が、その足音を聞きつけたのだろう。逆にクリスから誰何が飛んだ。
「そこに誰かいるのか」
「私です」
「サロメ殿か……。良かったら、入ってきてくれ」
 入れと言われて、サロメは戸惑った。その間を感じ取り、クリスから扉越しに再び声がかかった。
「もう、湯からは上がっているんだ」
「……はい」
 サロメは言われるままに扉を押し開いて、中へと入った。
 奥の続き部屋の湯殿から、控えの間までむっとした湿気が漂いだして籠もっている。
 クリスは椅子の一つに所在なさそうに腰をかけ、濡れた銀髪に布を押し当てているところだった。
 サロメの姿を認めて、微かに笑みを浮かべようとしている。
「……すまない、サロメ殿。皆が心配していたんだろう?私が籠もりっきりで出てこないから……」
 心身ともに疲れきったクリスの様子を見て取り、微妙な距離を保った場に立ったサロメは、さて何と声を掛けるべきか、と考えを巡らせた。
「皆、あなたを気遣っているのですよ。あまりご無理はなさらないように……」
「うん……」
 その時、クリスは何かを感じ取ったように、まじまじとサロメの顔を見直した。そして、その理由に気付いて、再び溜め息を漏らす。
 先刻から、サロメはクリスに対して上位者に対する礼を取っている。
 今現在の位は同じだが、クリスが団長代行をしているために、サロメは礼を保っているのだった。
 しかしそれは、今のクリスにはサロメとの距離を感じさせるものになっているに違いない。そのことは分かっていたが、敢えてサロメは態度を崩さなかった。
 クリスは、騎士団の頂点にたつべき人物だった。
 サロメは軍師として、クリスを支えてゆく腹積もりが出来ている。
 それ故に、同等の騎士として安易な慰めを口にするつもりはなかった。
「食事の用意が出来ていますが、こちらまで持ってこさせますか」
「……いや、いい。皆と一緒に取る」
「では、サロンでお待ちしています」
 クリスに背を向けたサロメを、細いクリスの声が呼び止めた。
「……血が、取れないんだ」
 振り向いて自分を見つめてきたサロメの視線を避け、クリスは俯いた。
「気のせいだと分かっていても、体についた血の匂いがどうしても取れない……」
「それで、ずっと浴室に籠もっておられたんですね」
「……ああ」
 サロメとクリスは、年齢が離れている故に、兄と妹のようにして付き合いを続けてきていた。クリスは、サロメを年輩の騎士としても精神的に頼りにしている部分がある。
 この場合、立場を盾にとってクリスを突き放すのは、或いは得策ではないのかもしれない。
 サロメは僅かに迷い、下を向いているクリスに静かに歩み寄った。
「……あの窓辺に飾っておられる花は、どうされたんですか?」
「花?」
 突然の質問に戸惑い、クリスは顔を上げてサロメの指差した窓辺の鉢を見た。
「ああ……。あれは、以前ガラハド団長に戴いたんだ。団長が育てておられた鉢からわざわざ分けていただいて……」
 語っていたクリスの語尾が小さくなって消えた。その鉢をくれた騎士団長は、今はもうこの世の人ではない。
「……ガラハド団長は、あの花の効能を知っていて、あなたに差し上げたのでしょうな」
「効能……?」
 サロメは窓辺に歩み寄り、小さな白い花をつける鉢を手にとって、クリスの元に戻った。
「気付いておられましたか?ほら……、この花は小さいが、実に良い香りを持っています」
 クリスの前に、鉢を差し出す。
「あ……、本当だ」
「この花は、安眠の効果があると言われているのですよ」
「……そうだったのか」
 サロメは、鉢をクリスに手渡した。
 そして片膝をついて、クリスの目を真っ直ぐに見つめた。
「酷なことを申し上げるようですが、その手が血で汚れていることは、紛れもない事実です」
「……」
「我々騎士は、ゼクセンの民のために、自らの身体を賭けて戦わねばならない。それは流血を伴いますが、非常に誇り高いことです」
「……そうだな」
 サロメは微かに笑んだ。
「我々は、貴女を誇りに思っています。全身に返り血を浴びても、我々と民の為に戦ってくれた貴女に、我々は忠誠を誓うでしょう。新たな騎士団長として」
 サロメは鉢についた土で汚れた手袋を取り、空いたクリスの手を取って額に押し当てた。
「――私も、あなたに忠誠を誓いましょう。これからずっと、貴女の苦悩を己の苦悩と思い、その行く先に栄光が待つように尽力する、と」
「サロメ殿……」
 目を見開いて驚くクリスの手を放し、サロメは優しい眼差しでクリスを見つめ返した。
「どうか、あまり悩まれますな。今夜は食事を取って、その花を枕もとに置いてよく眠られることです」
 クリスは手中の花に目をやった。暫く白い花を見つめていたが、やっと頷き、口元に笑みを刻んだ。
「……ああ、そうするよ」


 サロメの願いは、クリスが騎士団長として大成し、歴史にその名が刻まれることだ。
 それと同時に、女性としての幸せも願っていた。
 長い付き合いのうちに、クリスのことは妹のようにも思ってきた。
 それが欺瞞だとは思っていない。
 女性として彼女が幸せになるのは、正直難しいことも承知している。
 クリスは、その身に真の紋章を宿している。
 それは騎士団長としての彼女を後押しするものにはなるかもしれないが、若い女性としての幸せを奪うものになりかねなかった。
 年老いることのないクリスを女として幸福に出来るのであれば、サロメはパーシヴァルであれ、誰であれその関係を邪魔するつもりはない。
 クリスに、幸せになって欲しかった。
 執務室の扉がノックされた。
「サロメ……いるのか?」
 クリスの声だ。
「開いていますよ、クリス様。どうぞお入りください」
 サロメの声に応じて、クリスが入室してきた。
「どうしました、わざわざ出向かれるとは?」
 椅子から立ち上がって出迎えたサロメの前まで歩いてきて、クリスは悪戯っぽく笑った。
 そして、後ろ手に隠していたものをサロメの目の前に差し出す。
 サロメはその意外さに驚いて、思わず黙り込んでしまった。
 それは、サロメが先刻の花屋に頼んでクリスの私室に送り届けたものと同じ花だった。
 そして、今しがた思い返していたものと、同じ花でもあった。
「さっき、これと同じ花が私の部屋に届いたんだ。名前は明かされていなかったけれど、……お前だろう?サロメ」
「……分かってしまいましたか」
「すぐ分かったよ。それで、お返しにと思って、私も同じ花を買ってきたんだ」
 クリスはサロメに笑いかけて、鉢を差し出した。
「良かったら寝室に飾ってくれ。昔、お前が教えてくれた通り、この花を飾っているとよく眠れるぞ」
 サロメは丁重な動作で、その花を受け取った。
 思い出の中と変わらずに、小さな花はかぐわしい香りを放っていた。
「……ありがとうございます」
「それは私の台詞だ。いつも気を遣ってもらって……有難いと思っている」
 クリスは照れくさそうに笑った。
「じゃあ、用はそれだけだ。邪魔をしたな」
 クリスが帰りかけようとしたその背に、サロメは声をかけた。
「パーシヴァルとはいかがでした?」
「……え、ええっ!な、何のことだ」
「別に、隠されなくともよろしいのですよ」
 一気に赤面したクリスの顔を見て、サロメは
(パーシヴァルは上手くやったらしい)
 と冷静に分析した。
「クリス様も、良い眠りを」
「あ……ああ。そ、それじゃあな」
 扉に頭を打ちつけながらクリスが出て行くのを見守った後、サロメは花を机の上に置き、じっと見つめた。
 白い花は、物言わずにそこに佇んでいる。
 昔も今も、この花にかける願いは同じだ。
 ――どうか、クリスが悪い夢を見ず、よく眠れるように。
 幸せであれ、と。


                 ・・・THE END・・・




   
「白い花」
幻水のページへ戻る